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プロローグ -- 本編 12 ・ 3
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         番外編 1
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気づくと私はその丘に辿り着いていた。
ここは「望寂の丘」と呼ばれる、森を抜けたところにある、
かつては戦で守りの要地として重用されていたという場所だ。
確かに下の様子は丸わかりだし、投石とかも出来そうだけど、
ここって敵軍に攻め込まれたら終わりな気がしてならないんだけどなぁ。
これで守りの要地って言われても。

「最近来てなかったんだけどな、ここ」ふと、ひとりごちる。

悩みがあるといつもここに来ていた。
ここから見える景色は私を穏やかな気持ちにしてくれる。
人なんて本当にちっぽけなんだって、
自然だって綺麗なものじゃない、身近にあって当たり前なもの、
だけど、本当に大切な「普通」なものなんだって教えてくれる。
私の頬に当たる風も、私の下にあるこの大地も、空に瞬くあの星も。
リドや、ウィー、ミルミア達みたいな、かけがえのないものなんだって。
ここへやってきてから、私は色んなものを得た。
その代償に失ったものは、ない。
過去にいた私は、もうここにはいないけど、失ったわけでは決してない。
私の中で、永遠に、これからを幸せになろうと思うための力になっている。
不幸になることは幸せになるために必要な過程なんだろう。
雨が降るから、晴れた日が嬉しいように。
泣いて、そして、笑った私は本当の笑顔が浮かべられただろうか。
この気持ちをいつか、みんなに返せるだろうか。

ただ、

ただ、

昔の私も、今の私もそう願っていた。                         →次へ